]を消せばよかった」
忠弥組の第二、関太郎が残念がる。
とにかく、手に入れたもの同様にかたわらへ置いたのが、あの際、見つからなくなったのは不思議だ――と、どこまでも解《げ》せない顔だが、この連中は深く頓着はしないらしい。
ただ、あれが幕吏の手に見つかった時は大騒ぎになるだろう。いまごろは血眼《ちまなこ》になっているかも知れない。かぎ縄や、石筆や、マッチの類は、由々しき犯罪の証拠品となるだろうが、あの炭団《たどん》ばかりは、何のためだか見当がつくまい、と笑う者がある。
けだし、この連中は、かねての目的通り、江戸の城中へ火をつけに行ったものに相違ない。そうして今夜の瀬踏みが見事にしくじったので、やけ酒を飲んで気焔を揚げているとも見られるし、また、ある程度まで成功した祝杯を揚げているようにも見られる。
ともかく、これだけに味を占めた上は、早速また、第二回目の実行にとりかかるに違いない。
彼等は、何の恨みあって、こんなことをするのか。なんらの恨みがあってするわけではない、人にたのまれてするのである。人とは誰。それは西郷隆盛に――
西郷隆盛は、益満《ますみつ》休之助、伊牟田《いむだ
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