度こそは一世一代……これで年貢《ねんぐ》を納めるか、引退して余生を楽しみ得るか、という千番に一番。
つまり、その大望というのは以前にいった通り、豊臣太閤伝来、徳川非常の軍用金、長さ一尺一寸、厚さ七寸、幅九寸八分、目方四十一貫ありと伝えられる、竹流し分銅《ふんどう》の黄金が、いま現に存在するか否かを確めた上、その一箇を手に入れてみたいということ。
神尾主膳のいわゆる大奥の間取り調べという事の如きは、頼まれたとすれば、七兵衛にとっては、片手間でありましょう。
暫くして、犬の吠え声が全くやみました。
五
それから、丑三《うしみつ》の頃、大胆至極にも、江戸城の一の御門の塀《へい》を乗越して潜入した、一つの黒い影があります。
この時の七兵衛は、根岸の化物屋敷を出た時のいでたちとは全く違い、笠も、合羽《かっぱ》も、いずれへか捨ててしまって、目に立たない色の手拭で頬かむりをして、紺看板のようなのに、三尺帯をキリリと結んで尻端折《しりはしょ》り、紺の股引《ももひき》と、脚絆《きゃはん》で、すっかりと足をかため、さしこ[#「さしこ」に傍点]の足袋をはき、脇差は背中の方へ廻
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