はずはありますまい。
 金椎《キンツイ》がいるにしても、あれは、よし眼がさめていたとて、声では驚かされるものではない。
 娘にとっては、かなり危急な場合ではあるが、万事、人間のすることはそう手っ取り早くゆくものではない。猫ですらが、鼠をとった時は、一通りその功名を誇ってから後に食いにかかる。仮りにこのウスノロ氏が、思い設けぬ御馳走にありついたとしたところで、食の後には酒、酒の後には若い女と、こう順序があまりトントン拍子に運び過ぎてみると、なんだか自分ながら、果報のほどに恐ろしくもなるだろう。
 まして、これは最初から、兇暴な野心を微塵《みじん》も持って来たのではない。かりそめの漂浪者であってみれば、その咄嗟《とっさ》の間に、兇暴性を充分働かせるだけの器量があるとも思えない。
 要するにウスノロ氏は、ウスノロ氏だけのことしかしでかし得ないものだろうから、こういう場合に処するには、また処するだけの道があったろうと思われる。落着いてその道を講ずる余裕を失って、狼狽《ろうばい》してことを乱すと、かえって相手の兇暴性をそそり、敵に乗ぜらるるの結果を生むかも知れない。
 恐怖が、この娘を狼狽させた
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