久助さんもいない」
「いいえ、久助さんでは……」
といって語る人が、おのずから言葉がふさがって、顔色があおざめ、くちびるがふるえ、歯の根が合わないものですから、委細を知らない人たちまでがゾッとして、水を浴びせられたような気分になりました。
 その翌日も、お雪は、炉辺《ろへん》の一座へ顔を見せませんでした。
 けれども別に病気でないことは、ひとりでお湯につかっていることもあるし、廊下ですれ違った人もあるのですから、その点は心配はないが、湯に入っている時でも、人を見ると逃げるように、廊下で逢う時も、わざと顔をそむけるようにして通り過ぎるのを、いつもの快活な人に似合わないと、噂をする者もありました。それで、あの娘は病気でもなんでもないけれど、連れの人が悪いので、それがためにお雪も出ぬけられないのだろう、と解釈する者が多くなりました。
 お雪には、久助のほかに連れの人がある。お雪の口ぶりによれば、それは兄であるともいうし、また先生と呼ぶようなこともあるが、その人は、絶対にこの一座の人には加わることがないのみならず、その存在を知っている人すらも、この一座の中に極めて稀れだという有様であります――
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