す人だったに相違ないとの評判でございました」
「なるほど」
「そのお父さんに仕込まれたんだから、竜之助さんも子供のうちはようござんした」
「なるほど」
「頭も違っていましたし、剣術はたしかに天性でしたね」
「うむ、うむ」
「もっとも剣術はお父さんという人も、そのお祖父《じい》さんも、なかなか出来たので、代々道場を持って、弟子もあり、武者修行の方も、三人や五人遊んでいないことはありませんでした。そのうちには江戸で指折りの先生も、ずいぶんお見えになっていたのですから、本当の修行ができたに違いありません。お父さんは剣術も出来たが、槍がよかったと言います、宝蔵院の槍が……」
「なるほど」
「ですから、竜之助さんも、竹刀《しない》の中で育ったもので、十二三の時に、大抵の武者修行が、竜之助さんにかないませんでした。そうしてもし、自分より上手《うわて》の者が来ると、幾日も、幾日も、その人を泊めておいて、その人を相手になってもらい、その人より上にならなければ帰さないというやり方ですから、ぐんぐん上達するばかりでした」
「なるほど」
「竜之助さんの修行半ば頃から、お父さんが病気にかかって、起《お》き臥《
前へ 次へ
全251ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング