か。
よし、わたしは一生すたり物になるとしても、その子が……その子の長い一生が、またすたり物になるではありませんか。
弁信さん――
あなた、よく教えて下さい。覚えのない妊娠ということがありますか。
父のないのに、子というものが生れるものでしょうか……
わたしは、この苦しい思いを打明けて、誰にも相談することができません。
こんな時こそ、せめて、あのいやなおばさんでもいてくれたら、かえっていい相談相手であったかも知れませんが、今はその人さえおりません。
ぜひなくこうして、遠いところにいるあなたに手紙で御相談をかけてみる、わたしの胸の苦しさをお察しください。
よく、昔の本などには、物の精に感じて、身持になった女があるそうですが、わたしのもそんなのではないでしょうか。
今の世でそんなことを言えば笑われてしまいます。
身持になったわたしを、だれも、不義いたずらの結果と見ないものはありますまい。
郷里へ帰れば、知れる限りの人の指が、わたしの身体《からだ》へ蜂の巣のように突き刺されて、そのあざ笑いの痛さ、冷たさが、想像してさえ骨身にしみるようです。
万一、これが本当の身持であったなら、どうしても、
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