からそれを言います……あなたでなければ、それを聞いて下さる人はありません。それは水の中で、ものすごい人の姿を見たのではありません。
わたしのお腹の中で、何ともいえないいやな思いを致しました。
弁信さん――
それをいうのは苦しうございます。いつぞや、あのいやなおばさんは、わたしの乳を見て、黒くなったと言いました。
……その時はわたし、いやな思いをしただけでしたけれど、きょうは人の口からでなく、自分のお腹の中で、そのいやな声が聞えました。
ああ、弁信さん――
わたしは妊娠したのじゃないでしょうか。
もしそうだとすれば、ほんとうに、どうしたらいいでしょう。
あの時、あのいやなおばさんから、乳が黒いとからかわれた時、真赤になったわたしは、ただ恥かしく、口惜《くや》しい思いをしたばかりでしたけれど、今は、わたしのお腹の中が動きます。
ああ、怖ろしいことです……わたしは、ほんとうに身持になったのではないかと、この胸がさわぎ出しました。そう思うと、いよいよお腹の中で、何か動きつづけているようです。
そんなはずは決してない、と気を取り直して、心を落着けようとしていますけれど、もし、そうであったら、わ
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