と》のようにいっていると、
「梅ちゃん、どれがいいの?」
お角から尋ねられたのを上《うわ》の空《そら》で、
「どれもこれもみんないいわ」
「いちばんいいのをお取り」
「いいえ、わたし、千代紙でたくさんなのよ」
「この嫗山姥《こもちやまうば》がいいだろう」
「まあ……」
お梅は仰天してしまいました。その五彩絢爛《ごさいけんらん》たる八重錦の羽子板の山の中で、いちばん優《すぐ》れて、いちばん大きい嫗山姥、まさか買って下さいともいえないが、買って下さるはずもないとお梅が仰天している間に、お角は番頭に交渉し、さっさとその大一番の嫗山姥を買取って、お梅に持たせたから、お梅がひとごとではないと思いました。
お角は相変らず奉納の趣向を考え、お梅は有頂天《うちょうてん》になって、駒形通りへ出ました。
お角が駒形堂の前へ来ると、ちょうどその船つきへ小舟が着いたところで、幾多の人がゾロゾロと河岸《かし》へ上りました。
そのなかに、お角の眼をひいたのは、図抜けて大きな人が、西洋の蝙蝠傘《こうもりがさ》をさして上って来たことで、蝙蝠傘の流行は、今ではさして珍しいことではないが、まあ、どちらかといえば
前へ
次へ
全352ページ中51ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング