大菩薩峠
流転の巻
中里介山

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)碓氷峠《うすいとうげ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)二八|蕎麦《そば》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「りっしんべん+豈」、第3水準1−84−59]
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         一

 宇治山田の米友は、碓氷峠《うすいとうげ》の頂《いただき》、熊野権現の御前《みまえ》の風車に凭《もた》れて、遥かに東国の方を眺めている。
 今、米友が凭れている風車、それを米友は風車とは気がつかないで、単に凭れ頃な石塔のたぐいだと心得ている。米友でなくても、誰もこの平たい石の塔に似たものが、風車だと気のつくものはあるまい。子供たちは、紙と豆とでこしらえた風車を喜ぶ。ネザランドの農家ではウィンドミルを実用に供し、同時にその国の風景に情趣を添えている。が、世界のどこへ行っても、石の風車というのは、人間の常識に反《そむ》いているはずだ。しかし、碓氷峠にはそれがある。
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