いて来て、その光を大空へ吹き上げたから、ハッとして眼を醒《さ》ますと、自分の転寝《うたたね》をしていた身体の上へ、誰かふわりと掻巻《かいまき》を着せてくれた人がありました。
「風邪《かぜ》を引きますよ」
障子のところに立っている女の姿を見ると、米友はムックリと起き直って、
「お玉さん!」
「ホ、ホ、ホ、どうもお気の毒さま、つい、お邪魔をして済みませんでした」
「玉ちゃん、いいからお入り」
「はい」
「ここへお入り、話があるから」
米友は、ほとんど猛然として起き上って来て、お玉の袖を取りました。
「こわい人――この人は――」
お玉は笑いながら、米友に引かるるままに、袖を引かれて来ました。
六
女軽業の親方のお角さんは、お気に入りのお梅ちゃんを連れて、浅草の観音様へ参詣の戻り道です。
「梅ちゃん、何ぞお望み、今日はなんでも好きなものを買って上げるから……」
「お母さん、千代紙《ちよがみ》を買って下さいな」
「千代紙――? ほんとにお前も子供だねえ」
お梅の子供らしい望みを笑いながら、お角は雷門跡から広小路へ出ました。
お角もこのごろは、痛《いた》し痒《かゆ
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