」
「お玉さん、思い入れて磨いておあげ……そうして坊っちゃん、今晩はお玉さんの懐ろに入ってゆっくりお休み」
「あっちへ行っておいでってば――」
「やけます……」
「いよう! 御両人……」
外が、無暗に騒々しいから、米友がムッとしました。
「お客様、お気にかけなさいますな、みんないい人なんですけれど、口だけが悪いんですから」
「ばかな奴等だなあ……何が面白くって、外で騒いでやがるんだ」
米友が面《かお》を上げて窓の上を睨《にら》むと、そこにはいくつかの首が鈴なりになっている。
「兄さん――お前は子供なのかい、それともお爺《とっ》さんなのかい?」
その鈴なりの顔の一つが叫ぶと、続いて他の一つが、
「裏から見れば子供で、表から見ればお爺《とっ》さんだから、これが本当の爺《とっ》ちゃん小僧というんだろう」
「ばかにしてやがらあ……」
といって米友が横を向くと、
「だけれど、強いなあ、お前さんは強い人だなあ――なり[#「なり」に傍点]は小さいけれど、身体《からだ》が締ってらあ――」
と讃美の声を上げるものもありました。米友は、もう横を向いたきりで取合わないでいると、女がいきなり立って行って
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