いた二三人が崩れ落ちて、
「お化けだ……」
といいました。
その時、風呂桶から全身を現わして流しに立った米友。身の丈は四尺、風呂桶の高さといくらも違わない。
「やっぱり子供だよ」
「いい身体《からだ》だなあ」
とドヨみ渡って感心したものがありました。その鉄片をたたきつけたような隆々《りゅうりゅう》たる筋肉、名工の刻んだ神将の姿をそのまま。その引締った肉体を見たものは、面貌の醜と、身長の短とを、忘れてしまいました。
米友が風呂桶から流しへ出て、板へ腰をかけて洗いはじめた時に、さいぜん道庵先生を、桝形《ますがた》の茶屋から迎えてこの宿へ連れ込んだ、あだっぽい女が湯殿へ入って来て、
「お客様、お流し申しましょう」
と言って、かいがいしく裳《すそ》をからげて、米友の後ろへ廻りました。
「済まねえな」
米友はぜひなく、その女に背中を流してもらっていると、外の弥次《やじ》が、
「お玉さん、しっかりみがいて上げてくんな」
と弥次りました。
「お黙りなさい」
その女が叱ると、
「いよう――」
と妙な声を出し、
「可愛い坊っちゃんを、大事にして上げてくんな」
「うるさい、あっちへ行っておいで……
前へ
次へ
全352ページ中39ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング