っぱりあの先生は、気の知れない先生だという説が多く、また一方には、いかさま、その従者であり弟子である小童でさえ、あのくらい強いのだから、主人であり、先生であるあの飲んだくれの強さは、測ることができないのだと、真顔にいうものもありました。それが、どういう拍子で間違ったか、あの先生は、あれはつまりお微行《しのび》の先生だ、ああして浮世を茶にしてお歩きなさるが、実は昔の水戸黄門様みたいなお方に違いないと言い出すものがあると、
「なるほど……」
すべてが、なるほどと頷《うなず》いて、それから道庵に対する待遇が、いっそう重いものになりました。
いつもこういう際における道庵は、転んでもただは起きない結果をつかむ。
道庵は、苦もなく水戸の黄門格にまで祭り上げられたが、その従者たる米友は、隠れたるお附添の武術の達人……特に子供のうちの鍛練者を択《えら》んでお召連れになったのだろうという想像や好奇心で、米友を見たいというもの、もう一度見直したいというものが、玉屋の家の前に溢れています。
そのうち、誰が発見したか、裏手の方から流言があって、
「お坊っちゃんが、今、お湯に入っているところだ」
という
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