承知のはず。
「ナアーニ、五人力あろうが、十人力あろうが、おれの匙《さじ》にかかっちゃあ堪《たま》らねえ」
道庵は、その加賀様御用の提灯をたずさえて、跣足《はだし》で、尻はしょりで、とうとう問題の渦の中へ飛び込んだのは、酔興とはいいながら、本当によせばいいのです。
「御免よ……これ馬子様、お腹も立とうが、どうか、この道庵にめでて、十八文に免じて、今日のところは一つ……」
問題の提灯を、いきり立った馬子の裸松《はだかまつ》の前へ持ち出し、
「幸い、持合せがございますゆえ……新しいのを一本差加えまして……」
と言って、さいぜん峠で買ったばかりの蝋燭《ろうそく》を一本だけ差加えて、うやうやしく馬子の裸松の前へ出すと、これはかえって裸松の怒りに油をさしたようなもので、
「ふ、ふ、ふざけやがるない、この筍《たけのこ》め」
提灯を引ったくって、道庵の横面《よこっつら》を一つ、ぽかりと食《くら》わせました。
それで道庵がひとたまりもなく、二間ばかりケシ飛んでひっくり返ったが、そんなことに腰を抜かす道庵とは、道庵がちがいます。
「この野郎様、おれをぶちやがったな、さあ勘弁ができねえ、おれを誰だ
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