「ザマあ見やがれ、お差控えの御連中様……あは、は、は、は……」
と高笑いをし、ようやく身をかがめて、今度は本式に足を洗いにかかる途端に、風を切って飛んで来て、うつむいて足を洗っている道庵の頭に、イヤというほどぶつかり、そのハズミで、唸《うな》りをなして横の方へけし飛んだものがありますから、道庵が仰天して、すすぎの盥《たらい》の中へつッたってしまいました。
「あ痛え……」
見れば一つの提灯《ちょうちん》が、往来中《おうらいなか》から飛んで来て、道庵の頭へぶッつかって、この始末です。
三
頭の上へ降って来た提灯に、道庵は洗足《すすぎ》の盥《たらい》の中へ立ち上って驚き、驚きながら手をのばして、その提灯を拾い取って見ると、それは梅鉢の紋に、御用の二字……ははあ、加賀様御用の提灯というやつだな……
道庵は、片手で頭をおさえ、片手でその提灯を拾い上げて、盥の中に突立っていると、
「ど、ど、ど、どうしやがるでえ、待ちねえ、待ちねえ、待ちやがれやい、三ぴん」
その喧《やかま》しい悪罵《あくば》の声は、すぐ眼の前の往来のまんなかで起りました。
見れば、荷駄馬の手綱《た
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