の紋のついた提灯をつけて、お附添のさむらい[#「さむらい」に傍点]衆が四五人、もっともその中の一人のお方が、さむらい[#「さむらい」に傍点]姿でない棒を持ったお方と、こうお尋ね申しているんでございます」
「うむ、それか、それならば、たった今、ここを通った」
「有難うございます」
 喜んで駈け出した旅人風の後ろ影を見送ると、その男の足の迅いこと、右の肩から腕へかけて、急にすべり過ぎている姿勢《なり》恰好《かっこう》。
「はて……」
 乗物が怪しい! その瞬間に兵馬の頭脳《あたま》にひらめいたのがそれです。その途端に、鳥居の後ろからそろそろと人の姿が現われて、
「兵馬様、兵馬様」
と呼ぶ声。それは七兵衛の声です。
 例によって、笠をかぶって合羽を着た旅装の七兵衛は、鳥居の裏から出て来て、
「兵馬様、私はさいぜん[#「さいぜん」に傍点]から残らずこっちで承っておりました、山崎先生のおっしゃることが、いちいち御尤《ごもっと》もに聞えますると共に、あなた様の御身について、合点《がてん》の参らぬ節《ふし》が多いようでございます、それを少しばかり、七兵衛にお聞かせ下さいまし」
といって、兵馬とは向い
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