へ投げ出して、人数の中へハサまるが早いか、一団になって走せ去りました。
宇津木兵馬は、過ぎ行く乗物の一行を、その提灯の影が見えなくなるまで、茫然として見送っておりました。
「少々物をお尋ね致しとうございますのですが」
呼びさまされて見ると、自分の前に、見慣れない旅人風の男が立っております。
「何事です」
「ただいま、これへ一挺の乗物が通りは致しませんでしたろうか、ええと、たしか、源氏車の紋のついた提灯を持っておりましたはずで、お附添のさむらい[#「さむらい」に傍点]衆が四五人、もっともその中に一人、さむらい[#「さむらい」に傍点]体《てい》でないお方が、棒を持っておいでなさいましたはずで」
「ははあ、そのことか」
「その乗物は黒塗りでございました」
「それそれ」
兵馬はまだ、過ぎ去ったそのもののあとをながめているのです。
「いかがでしょう、通りましたでしょうか、通りませんでしたろうか、通りましたとすれば、どのくらい前のことでございましたろう、ぜひひとつ」
「なに、何をいわれた?」
「じょうだんではございません、ただいまこれへ、一挺の乗物が通りは致しませんでしたろうか、たしか源氏車
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