大菩薩峠
無明の巻
中里介山
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)畢竟《ひっきょう》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)庭上露|茂《しげ》し
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「口+曹」、第3水準1−15−16]
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一
温かい酒、温かい飯、温かい女の情味も畢竟《ひっきょう》、夢でありました。
その翌日の晩、蛇滝《じゃだき》の参籠堂に、再びはかない夢を結びかけていた時に、今宵は昨夜とちがってしとしとと雨です。
机竜之助は、軒をめぐる雨滴《あまだれ》の音を枕に聞いて、寂しいうちにうっとり[#「うっとり」に傍点]としていますと、頭上遥かに人のさわぐ声が起りました。
しとしとと降りしきる雨をおかして、十一丁目からいくらかの人が、この谷へ向って下りてくることが確かです。
見上げるところの九十九折《つづらおり》の山路から徐《おもむ》ろに下りて来るのは、桐油《とうゆ》を張った山駕籠《やまかご》の一挺で、前に手
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