ぶらの提灯を提げて蛇の目をさしたのは、若い女の姿であります。
 ややあって、駕籠だけは蛇滝の上に置かせて、蛇の目の女だけが提灯を持って、参籠堂の前まで下りて来ました。
 わざと正面の御拝《ごはい》のある階段からは行かないで、側面の扉をほとほとと叩いて、
「御免下さいまし」
 なんとなく、うるおいのある甘い声。机竜之助は枕をそばだてて、その声を聞いていると、
「あの、昨晩申し上げましたように、わたくしはこの夜明けに江戸へ参ります、それは、いつぞやも申し上げました、わたくしの子供の在所が知れました、ふとしたことから兄の家へ乳貰《ちちもら》いに来た人が、その子を連れて参りましたのを、兄が取り戻したから、そっと、わたくしに取りに来るようにと沙汰《さた》がありました、それ故、急いで行って参ります、急いで帰るつもりではございますけれど、行きがかりで日数がかかるかも知れません、どちらに致しましても、わたくしはあの子を連れてお江戸に近いところにはおられませんから、きっと戻って参ります、それまでの間、昨晩も申し上げましたように、これから上野原へお移り下さいまし、あれに月見寺《つきみでら》と申しまして、山
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