まれるままにいい気になって、附いたり離れたりしているまででございます」
「そうすると貴様は、あの者共のダシ[#「ダシ」に傍点]に使われているだけだな」
「そうでございますとも、ダシ[#「ダシ」に傍点]に使われているだけの罪のねえのでございますから、どうかお手柔らかに願いたいんでございます。いや、あの南条先生ときては、あれでけっこう人が悪いんだからな。さりとて、今度のことはあんまり人をダシ[#「ダシ」に傍点]に使い過ぎらあ」
「うむ、ダシ[#「ダシ」に傍点]に使われていると知ったら、それを出し抜いて、裏を掻《か》いてやる気にはならないか」
「そういう芸当は、大好きなんですがね、何しろ、あちら[#「あちら」に傍点]とこちら[#「こちら」に傍点]とでは役者が違いますからなあ」
といって、がんりき[#「がんりき」に傍点]がポカンと口をあいて見せたのは、かなり人を食った振舞です。山崎はなんと思ったかがんりき[#「がんりき」に傍点]の手を放して、
「よし、それではがんりき[#「がんりき」に傍点]、もし貴様が南条、五十嵐の方で買収されているなら、こっちでもう一割高く買ってやろうではないか。先方の後立
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