たんでございますからなあ」
 何をか言いわけをしようとするのを、山崎は許すまじき色で手首を持って引き寄せました。
 がんりき[#「がんりき」に傍点]の百蔵も、この人にとっつかまっては弱りきっているのを、山崎はグングンと引張って、
「がんりき[#「がんりき」に傍点]、貴様はこの間、南条なにがしの案内をして相模野街道を南へ歩いていたそうだが、あれはどこへ行ったのだ」
「白状してしまいますから、どうか、そう強く手を引張らないようにしていただきたいものです、片一方しかないがんりき[#「がんりき」に傍点]の手がもげ[#「もげ」に傍点]てしまうと、かけ[#「かけ」に傍点]がえがねえんでございます」
 がんりき[#「がんりき」に傍点]の痛そうな面《かお》を見て、山崎は引張っていた手をゆるめて、
「うむ、素直《すなお》に言ってしまえよ」
「素直に申し上げるまでもございません、あれは、たあいのねえことなんです、ほんの道連れになっただけのものでございます」
「まだトボけているな」
「お待ち下さい、私の方ではたあいのないことなんですが、先方様の思惑《おもわく》のところはわかりません、ただちょっとした縁で道づ
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