まして」
 がんりき[#「がんりき」に傍点]は額へ手を当てて苦笑いしました。今まで自分は南条、五十嵐の方の手先をつとめて、この山崎――この人はもと新撰組の一人で水戸の浪士、香取流の棒をよくつかう人――に楯《たて》を突いて来たので、この山崎には七兵衛が附いて、おたがいに張り合って来たのですが、ここで苦手にとっつかまっては、苦笑いがとまらない。
「がんりき[#「がんりき」に傍点]、昨夜のあのいたずら[#「いたずら」に傍点]は誰の仕事だ、貴様はよく知っているだろうな、知らないとは言わせんぞ。あれは南条力と五十嵐|某《なにがし》らの浪人どもが企《たくら》んで、伊豆甚の娘を盗み出して逃げたものに相違あるまい。多分、貴様あたりがその手引をしたものと睨《にら》んでいる。どうだ、真直ぐにいってしまえ、どっちへ逃げたか、それともどこへ隠したか、てっとり早く明白《はっきり》といってしまえ」
 山崎譲はグッと近く寄って来て、小柄を持っているがんりき[#「がんりき」に傍点]の小手を、しっかりとつかまえてしまいました。
「その事、その事なんでございます、実はがんりき[#「がんりき」に傍点]もその事で、出し抜かれ
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