」
がんりき[#「がんりき」に傍点]の百は、この時したり面《がお》に、ポンと自分の膝を打って、欅並木から六所明神の森をながめたものです。果してこのロクでなし[#「ロクでなし」に傍点]の鑑定が当っているかどうかは知らず、当人は、いっぱし睨みの利《き》いたつもりで、武蔵の国の総社六所明神を向うに廻し、一合戦をする覚悟の色を現わして、小鼻をうごめかしながら立ち上る拍子に、どうしたものかよろよろとよろけて、あぶない足を踏み締めると、これはしたり、自分の風合羽《かざがっぱ》の裾がお堂の根太《ねだ》にひっかかっている。
「ちぇっ」
苦《にが》い面《かお》をして、それをはずしにかかって、思わず面の色を変えました。
合羽の裾が何かにひっかかって、それで足をすくわれたものと、いまいましがって外しにかかると、
「おや?」
といって百の面の色が変ったのは、単に出そこなった釘の頭や、材木のそそくれ[#「そそくれ」に傍点]にひっかかったのではない、刀の小柄《こづか》で念入りにピンと、その合羽の裾が根太へ縫いつけられてあったからです。
「誰だい、こりゃあ」
さすがのやくざ[#「やくざ」に傍点]者も、これに
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