って来て、自分の草鞋を脱ぎ捨て、奉納の草鞋を抜き取り、それに紐を通して、例の片手で器用に穿《は》いてしまうと、何と思ったか、そのまま立たないで、堂の戸前へ腰を卸し、
「いつ見ても、この欅並木はたいしたものだ、八幡太郎が奥州征伐の時に植えたということだが、八幡太郎は今から何年ぐらい前の人だか知らねえが、まあ、ざっと千年も経つかな、見たところ、千年は経つまいがな、何しろ、欅としては珍しい方だ。雑司《ぞうし》ヶ谷《や》の鬼子母神の欅が、またかなりの大木だ。そのほか一本立ちならば随分あっちこっちに大木はあるにはある。いったい、関東でも、この辺の地味は欅《けやき》にいいんだろう。そういえば上方《かみがた》へ行っちゃ、あんまり欅の大木というのを見たことがねえ……そりゃそうと、これからこの欅並木を通って府中の宿《しゅく》へ入り込むと、さて、どういうふうに当りをつけてみたものかな。いったい、おれがいろいろ考えてみると、お役人の力で軒別に家さがしをして、それでわからねえものが、おれがこうして、ぶらりと飛び込んでみて当りのつくはずもねえのだが、さて、いったん府中の町へ入り込んで逃げたとすればどこだ、どこを
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