八つ……」
 弁信はしきりに数を読んでいる。茂太郎はそれを不審がっているうちに、
「十……十一……十二……十三……十四……十五……!」
で終りました。
「ああ、これですっかり腑《ふ》に落ちた。茂ちゃん、馬の数は十五だよ、つまり十五人の人が、馬の轡を並べて東の方からやって来たんですよ。夜中に十五人も馬を並べて通るのが只事ではないと思って考えてみたが、江戸の侍たちが月見の遠乗りに、この分倍河原をさして来たものでしょう。今夜はいざよい[#「いざよい」に傍点]ですからね」
 ところがこの十五騎の蹄の音がやむと暫くたって、府中の町がひっくり返るような騒ぎになりました。喧々囂々《けんけんごうごう》と罵《ののし》る声が地に満つるの有様です。
 一年一度行われる関東名物の提灯祭りの夜以外には、絶えてないほどの騒ぎが持ち上ったのは、まさしくいま乗込んだ十五騎が持ち込んだものに違いありますまい。事の体《てい》をよく見ると、どうやら全町を挙げて家探《やさが》しが行われているようです。
 騒ぎ、驚き、怖れ、憂えている人々の罵る声を聞いてみるとこうです。世にはだいそれた奴があればあるもので、江戸のあるお大名の奥
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