うよ」
茂太郎は、見兼ねて促《うなが》しました。
「出ろ、出ろ。貴様たち、それほど琵琶が弾きたいなら、河原へ行って、思う存分弾くとも呶鳴《どな》るともするがいいや。そこを出ると多摩川で、その近辺の河原が分倍河原《ぶばいがわら》といって、古戦場のあとだ。河原の真中で弾く分には、誰も文句をいうものはなかろう」
社人は、一刻の猶予も与えずに追い立てるから、弁信も詮方《せんかた》なく、琵琶を抱いて立ち上りました。
九
弁信の喋《しゃべ》った通り、平皇后宮亮経正《たいらのこうごうのみやのすけつねまさ》は、竹生島《ちくぶしま》で琵琶を弾じた時に、明神が感応ましまして、白竜が袖に現われたかも知れないが、弁信が六所明神で琵琶を奉納すると、白竜が現われないで、竹竿が現われました。
その竹竿につつき出された二人は、これから宿中を流して歩こうとも思いません。また宿を求めて泊ろうとも致しません。わからずやの社人に差図をされた通り、正直に程遠からぬ分倍河原へ出てしまいました。ここで奉納の曲の残りを語ってしまい、なお夜もすがら喋りつづけ、或いは語りつづけるつもりと見えます。
分倍河
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