めて、六所明神様へ御奉納の寸志でござりまする。昔、妙音院の大臣《おとど》は、熱田の神宮の御前で琵琶をお弾きになりましたところが、神様が御感動ましまして、霊験が目《ま》のあたりに現われましたことでござりまする。また平朝臣経正殿《たいらのあそんつねまさどの》は、竹生島明神《ちくぶじまみょうじん》の御前で琵琶をお弾きになりましたところが、明神が御感応ましまして、白竜が現われたとのことでござりまする。わたくしなんぞは、ごらんの通りさすらいの小坊主でございまして、無衣無官は申すまでもございません、その上に、お心づきでもありましょうが、この通り目がつぶれているのでござります、目かいの見えない不自由なものでございます、それに、琵琶とても、節《ふし》とても、繰返して申し上げるまでもなく、お聞きの通りの拙いものでございますから、とても神様をお悦ばせ申すのなんのと、左様なだいそれた了見《りょうけん》は持っておりませんのでござりまする。ただまあこうも致しまして、わたくしの心だけが届きさえ致せば、それでよろしいのでございますから、もう暫くのところお待ち下さいませ、せめてこの一くさりだけを語ってしまいたいのでご
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