て呼んだお君の声は、夢の中から出たようで、その眼は開いているのではありません。
「お君さん……」
と米友の代りにお松が返事をしたけれど、お君の呼んだのは囈言《うわごと》でありました。
 二人は、なおその寝顔をじっと見ていると、お君の額にありありと、苦痛の色が現われて、
「あ!」
「お君さん」
 お松がその背中へ手を当てると、
「皆さん、ムクを大切《だいじ》にして下さい、お松様、あのことをお頼み致しますよ」
「何をいっていらっしゃるの、お君さん、しっかりしなくてはいけません」
「友さん……それでは、わたしを間の山へ連れて行って下さい……駒井の殿様へよろしく申し上げて、さあいっしょに帰りましょう……鳥は古巣へ帰れども、往きて還らぬ死出の旅……」
 この時、お君の面《おもて》からサッと人間の生色が流れ去って、蝋のような冷たいものが、そのあとを埋めてしまいました。
「誰か来て下さい……」
 お松が叫んだ時、抱えていたお君の頭が、重くお松の胸に落ちかかります。
「死、死んだのかい!」
 宇治山田の米友が、矢庭《やにわ》に飛び上ったのもそれと同時刻。
 かわいそうに、お君は死んでしまいました。


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