まもなく、この邸の裏門から驀然《まっしぐら》に走り出だした宇治山田の米友は、相生町を真一文字に、両国橋の袂《たもと》まで飛んで来て、
「これこれ、どこへ行く」
 橋際の辻番の六尺棒で行手を支えられた時、
「間の山へ行くんだ」
「何だ……」
「間の山……じゃなかった、小石川へ帰るんだ」
「小石川のどこへ」
「この提灯《ちょうちん》を見ねえな」
 突き出してみたけれども、あいにくのことに、その提灯に火が入っていません。
「ちぇッ」
 杖槍と、提灯とを、ひっかかえて来たけれども、この提灯へ火を入れることを忘れていた。
「どこから来た」
 辻番は穏かならぬ面色《かおいろ》で咎《とが》めると、米友は舌打ちをしながら、
「相生町の御老女の屋敷から来て、小石川の伝通院の学寮へ帰るんだ、火を貸しておくんなさい」
 米友は火の入っていない提灯を、辻番所まで持ち込むと、
「それ」
 ちょっと億劫《おっくう》がった辻番が、投げ出すように火打道具を貸してくれる。
「カチカチ」
「ちぇッ」
「カチカチ」
 燧《ひうち》を打つ手先が戦《わなな》いて、ほくち[#「ほくち」に傍点]を取落してはひろい上げ、ようやく附
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