」
しかしこの時は、悪魔は来ないで、ムク犬がやって来ました。
お松が立って行ったあとで、米友は、
「ムク」
うるみ[#「うるみ」に傍点]きった大きな眼と、真黒い中で、真黒い尾を振る姿を見て、
「ムク、手前は強い犬だったなあ、昔もそうだったから今もそうだろうが、強い犬になるにゃあ、飯をうんと食わなくちゃ駄目だぞ」
「…………」
「飯を食わなけりゃあ痩《や》せちまあな、痩せちまっちゃ強い犬にはなれねえぞ、しっかりしろよ」
身を屈めた米友は、手を伸べてムク犬の首から咽喉《のど》を撫でてやり、
「宇治山田にいる時はなあ、手前がほんとうに怒って吠えると、街道を通る牛や馬まで慄《ふる》え上って、足がすく[#「すく」に傍点]んじまったものだ。こっちへ来ても、おそらく手前ほどの犬は無かろう。たとい、おいらが附いていなくたって、お松さんという人が附いている、お松さんはほんとうに親切な人なんだから、手前はよくお松さんのいうことを聞いて、飯を食わなくちゃいけねえぞ」
「…………」
「意久地《いくじ》なしめ、痩せてやがら。ホントに手前はいつまでも強い犬でいねえと、おいら[#「おいら」に傍点]が承知しね
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