、あたりの人が散ってしまったのには気がつきません。ちょっと絵筆をさしおいた絵師が、
「君、絵がわかるかね」
とたずねたときに我にかえって、
「うむ、絵はわからねえけれど、筆つきが面白いなあ」
「そうか、一枚描いて上げようか」
「いらねえ――」
すげもなくいうと、絵師は、
「君は面白そうな男だ。いったい、拙者の絵を見ているのか、筆を見ているのか」
「うむ――」
米友は唸《うな》りました。改ってこう尋ねられてみると、ちょっと返答に困るのです。ナゼならば米友は、そんなに絵が好きではありません。この絵師の描いている画題そのものも、人の足を引留めるほどの奇抜なものでもなんでもないから、絵草紙屋の店頭《みせさき》をも素通りする米友が、ことにこれらの絵に向って、足をとどめねばならぬ必要は更にないはずです。そうかといって筆が好きだというのも、おかしなものですから、ちょっと吃《ども》って、
「筆つきがばかに気に入ったなあ」
「ははあ、では、やっぱりこの筆が気に入ったのだな。絵は要《い》らないが、筆が欲しいというのか。そんならこの筆を上げよう」
といって描きかけた筆を米友の前に提示しました。米友は面喰
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