、あえて驚く人ではありません。
しかし、月の紅く見えたのはホンの一時、あれと言っている間に、もとの通りの冷々然たる白い光を静かに投げて、地上は水を流したようです。
机竜之助の刀を突きつけてジリジリと詰め寄るのは、非常に悠長なもので、名人の碁客が一石をおろすほどの静粛と、時間とを置いて、弁信法師に迫っては行くが、まだたしかに両者の距離は三間からあります。盲目となって以来、この男の刀の構えぶりが、一層静かになってきました。刀を以て敵を斬るよりは、刀をふせ[#「ふせ」に傍点]て敵を吸い寄せるの手段かに見えます。思うに、盲目となって以来、幾多の人を斬った手段が皆これでしょう。刀を構えると、全身の殺気が電流の如く、その刀に流れ寄って来るのであります。蛇が樹下にあって口を開くと、鼠がおのずからその口中に落ちて来るように、この流るるが如き殺剣《さっけん》を突きつけられると、何物も身がすくんで、我とその刃に触れて、命を終らぬということはありません。斬るよりは寧《むし》ろ斬られるのです。のがれんとするよりは、近づいて来て斬られてしまいます。
ひとりこのお喋り坊主の弁信に限って、その怖るべき吸引力の
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