ん。
 白虹《はっこう》日を貫くのは不祥である、月光|紅《くれない》に変ずるのも只事ではない。日月は天にあって、人生を照覧するものだから、心を虚《きょ》にしてそれを直観していると、すべての人間界の異象《いしょう》がまず以て日月の表に現われるのだということを、まじめに信じているものがあるのですから、夜な夜な月色が紅に変ずるのを、吉兆と見たり、悪瑞《あくずい》と見たりする者の出づるのも抑えることができません。そうだという迷信に対して、そうでないという正信も成立ってはいないらしい。
 一本の卒塔婆を中にして、盲法師のお喋《しゃべ》り坊主の弁信と、刃をつきつけた机竜之助とが相対している時に、たまたま道志脈の上に横たわる月の色が変ってきました。たとえ、一時《いっとき》とは言いながら、血のように紅く見え出してきたのが不思議です。
 とはいえ、それは都大路で見る時のように、多くの人が人だかりして指さし騒ぐのではない。この小高原のあたりでは、もうすでに寝静まり、月見寺の庭には、こうしてただ二人だけが相対しているのみで、しかも、その二人ともに眼がつぶれているのですから、月が紅くなろうとも、青くなろうとも
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