は、
「左様でございます」
同じところを向いたままで、同じようにしょんぼりとしたままで、
「私は口が過ぎていけません。そのことは知らないではありませんから、自分ながら慎《つつし》みをしようかとも思いますけれども、その場合になりますと、そういう感じがフイに湧き起って参りまして、そう言わなければだまっていられないのでございます。言ってしまったあとで、ハッとは思いますけれども、なおよく考えてみますと、自分のいったことが間違っていたとは思われませんので、これはいい過ぎたと後悔を致したことが更にございませんのです。その時はお笑いになった方々まで、あとになりますと、私の申したことにヒタヒタと思い当ることがおありなさると見えて、さのみ私をお咎《とが》めにもなりませんのでございます」
「では、ここにいる拙者が、巣鴨まで人を殺しに行ったのも本当かも知れない」
といって竜之助は、冷たい笑いを例の蒼白い面《おもて》に漂わせましたが、何としたものか、その笑いが急に止むと、その面がみるみる真珠のような白味を帯びて、ひとむらの殺気が濛々《もうもう》として、湧き上って来るようです。
その時、弁信法師はこれも何と
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