々、当時天下の人物としても恥かしい人物ではないが……なにぶん大廈《たいか》の覆《くつが》える時じゃ、徒《いたず》らに近藤勇、土方歳三輩の蛮勇をして名を成さしむるに至ったのも、天運のめぐる時でぜひもない……それにつけても我々は、亡ぶべきものを亡ぼすと共に、生れ出づべき生命を、永久に意義あるものとしなければならない」
二十
さてまた、長者町の道庵先生の屋敷の門前では、子供たちがしきりに砂いじり[#「いじり」に傍点]をして遊んでいます。
「粂《くめ》ちゃん、そんなことをしてもツマらないから、もっと高級な芸術をこしらえて遊ぼうや」
「ああ、そうしよう、みんなおいでよ、良ちゃんもおいでよ、広ちゃんも。みんなして高級な芸術をこしらえて遊ぶんだから」
「ああ、あたいも入れておくれ」
「あんまり大勢呼ぶのはおよし」
「高級な芸術ってどんなの」
「今、あたいたちがこしらえるから、こしらえたら上手《じょうず》でも下手《へた》でもいいから、みんなして手を叩いて賞《ほ》めるのよ」
「それが高級な芸術なの?」
「ああ、君たちも少し手伝っておくれよ」
「あたいもね」
子供たちが集まって、
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