た」
「御大も、あの時のことを思い出すと癪にさわると見え、身ぶるいをして、憎いおしゃべり[#「おしゃべり」に傍点]坊主! と口惜《くや》しがっている」
「全く、あの小坊主は変な坊主でした、うちの茂太郎の友達だと言って来たこともありましたが、怖いほど勘のいい――」
「全くあの時分の化物屋敷は、名実共に化物屋敷であったが、御大があの形相《ぎょうそう》では、今後の化物ぶりが一層思い合わされるのだが、当分、田舎《いなか》に引込んで此方《こっち》へは出て来まい」
「どこへ引込んでおいでになっていますか」
「栃木の大中寺《だいちゅうじ》というところに、もとの知行所があって、そこへ隠れている」
「栃木の大中寺、たいへん遠いところへお越しになったものですね」
「なに、遠いといっても日光より近いのさ。一度、日光参詣をついでに、一緒に見舞に行かないか」
「ぜひお供を致しましょう」
「ところで、今日ワザワザやって来たのはほかではない、君にちょっと金儲けの口を授けようとして来たのだ。というのは、ながらく西洋へ売られて行って、あっちで珍しい手品を覚えて来た奴がある、それをうまく売り込みたがっている口を聞き込んだ
前へ 次へ
全338ページ中137ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング