まあ、慾張り……」
「静かにおし、梶原様のお入《い》り」
力持のお勢が眼面《めがお》で知らせたところへ、親方のお角がやって来ました。
お角が現われると、美人連も急に引締まって、どてら[#「どてら」に傍点]を被《かぶ》って寝ていた力持のお勢でさえも、起きて迎えに出ました。
「勢ちゃん、あんばい[#「あんばい」に傍点]はどうです」
「有難う、格別のこともございません、よくなりました」
「大切《だいじ》におしよ」
美人連は、そわそわとして持場持場についたり、控《ひかえ》へ出て行ったりして、そこに残るものは福兄とお角の二人だけです。
「福兄さん、よく無事でながらえておいでになりましたね」
「恐れ入りやした」
福兄は明荷《あけに》のところへ背をもたせて、ちょっとばかり頭を下げて、
「拙者の方でも一別以来、ずいぶんの御無沙汰だが、親方、お前の方でもずいぶん薄情なものだ、化物屋敷が焼けて、御大《おんたい》はあの通り苦しんでいる、我々はみな散々《ちりぢり》バラバラになっているのに、ツイぞ今まで、福はどうしているかと、お見舞にあずかった例《ためし》がない」
「その恨みなら、こっちに言い分が大有り
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