作さんでも、憎みが利《き》かないかねえ」
「あれじゃ、あんまり温和《おとな》し過ぎるわ。と言って、蛇使いのお金さんは柄が小さいし」
「そうそう、あるわよ、あるわよ」
「誰?」
「怒られると悪いから」
「かまわないからお言いな」
「でも叱られるといやよ」
「誰も叱るものはいやしない、ねえ、福兄さん」
「ああ、どうして、梶原という役は、あれで色悪《いろあく》にはなっているが、ほんとうはなかなか腹のある奴だから、わりふられたって怒るがものはねえや」
「それじゃ言いましょうか」
「お言い、お言い」
「うち[#「うち」に傍点]の親方」
「なるほど、まあ、その辺だろう」
「そこで錦絵姫が一枚欲しいのだが、おちゃっぴい[#「おちゃっぴい」に傍点]を外《はず》してお姫様をふる[#「ふる」に傍点]わけにもいかず、これも難役だろうじゃないか」
「お姫様なら、わたし代って上げてもいいわ」
「わたしも、おちゃっぴい[#「おちゃっぴい」に傍点]をやめて、お姫様の方へ廻ろうか知ら」
「わたしは、おちゃっぴい[#「おちゃっぴい」に傍点]はおちゃっぴい[#「おちゃっぴい」に傍点]として、お姫様と二役やってみたい」

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