あそこでよく罪人が首を斬られたものです。今の花屋の死んだお爺さんが、そのお処刑場の傍らで供養にする花を売っていました、つまり花屋という名も、そこいらから起ったんでしょうねえ。ところで、あるとき一人の浪人が、その花屋のお爺さんに一口《ひとふり》の刀と、まだ乳《ち》ばなれのしない女の子を預けてどこかへ行ってしまいました、この女の子が、あのお若さんなのです。浪人衆は多分、父親なんでしょう、関所を通るについて、子供をつれては通りにくいことがあったのでしょう、それっきりお父さんというのが音沙汰がありませんで、女の子は花屋で引取って育てました、これがあのお若さんなんです。土地の人は、そんなことを知ってる者もありますが、知らないものもあります。本人のお若さんは、そのことを知らないでいるそうです」
「それが、どういう縁で、江戸の方へかたづいたのだ」
「そのことは、あんまりよく存じませんが、なんでもお若さんはいやがっていたのを、先方が強《た》ってというのに、世話人の方へ義理があって行くことになったんだそうですよ」
後ろの老練なのが、委細を説明していたが、この時、不意に前棒の若いのが口を出して、
「お若
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