は呪われ、これに触れずしてその心だけを取るもののみが、溶鉱のように溶けた熱い肉に抱かれる。
お角はお銀様だけがどうも苦手《にがて》です。この人に向うとなんだか圧《お》され気味でいけない。なんという負い目があるわけではないが、この人には、先《せん》を制されてしまいます。そこで申しわけをするように、
「よろしうございます、そういうことを頼むには慣れた人を知っていますから、近いうちに、キッとお嬢様のお望みの叶うようにして上げましょう」
「どうぞ、お頼み申します」
といってお銀様は、お辞儀をして立って行きました。
二階へ上って行く後形《うしろすがた》を見ると、スラリとしていい姿です。品といい、物いいといい、立派な大家のお嬢様として通るのを、あのお高祖頭巾の中の秘密が、めちゃくちゃ[#「めちゃくちゃ」に傍点]に、一つの人生を塗りつぶしてしまうかと思うと、さすがに不憫《ふびん》ですが、鉛色に黒く焼けただれた顔面の中には、白味の勝った、いつも睨《にら》むような眼差《まなざ》し。お角でさえも、その眼で見られた時は、ゾッとして面《おもて》を外《そ》らさないことはありません。
お銀様が二階へ上ってし
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