気をつなぐこともできよう、そのうちに、またまた奇策をめぐらして、満都といわないまでも、満両国橋をあっといわせることはお手の物だという得意があっただけに、途中で茂太郎を奪われたことが痛手です。
いったい、この女が最近において当てた二ツのレコードは、印度の黒ん坊の槍使いと、それから山神奇童の清澄の茂太郎に越すものはないのに、二つとも大当りに当りながら、どちらも途中で邪魔の入ったのが癪《しゃく》です。
「ちぇッ、どこかで見たっけ、あのちんちくりん[#「ちんちくりん」に傍点]の黒ん坊を。もう一ぺん引張って来ようか知ら」
と、お角がいまいましそうに未練を残してみたのは、例の宇治山田の米友のことであります。
「あれならば、まだまだけっこう人気が取れるんだけれど、あいつは、馬鹿正直で、まるっきり商売気というものが無いんだからやりきれない」
お角は、米友に未練を残しながら、煙管《きせる》をやけにはたいて、それからそれと問わず語りをはじめている。
「お祖師様の一代記を菊人形に仕組んでみたら、という者もあるが、あれはいけないねえ、人々《にんにん》に相当したことをやらなけりゃ物笑いだからねえ……いっそ、
前へ
次へ
全338ページ中121ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング