だしい気分になる。
そこで、おたがいの舌頭から火花が散るように、壮快な話題が湧き上る。
察するところ、南条を的《まと》にして数名の壮士が、いま旅から帰ったばかりで、やにわにここへ押しかけて来たものと見える。
筑波、日光、今市――大平山等の地名が交々《こもごも》その話題の間にはさまれるところを以て見れば、この連中は常野《じょうや》の間《かん》を横行して戻って来たものと思われる。
しかし、ある時は、その話題がとうてい間を隔てては聞き取れないほどの低声になって続くことがある。そうかと思えば忽ちに崩れて、快哉《かいさい》を叫ぶようなこともある。
そうして一通り、重要の復命か、相談かが済んだと思われる時分に、
「日光街道で、変な奴に逢ったよ」
これは余談として、一座の中の五十嵐甲子雄が発言であります。
「誰に?」
南条力が受取ると、
「あの、ならず者のがんりき[#「がんりき」に傍点]の百蔵」
「ははあ、あいつに日光街道で……」
「何か知らんが日光街道を、血眼《ちまなこ》で飛んで歩いていたから、呼び留めて聞くと、奴なんともいえないイヤな苦笑いをして、お帰りになったら南条先生に、先生そ
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