を別ってしまいました。七兵衛は、なお暫くとどまって、兵馬の去り行くあとを見送っていましたが、
「どうも、若い者のすることは、危なくって見ていられねえ、間違いがなければいいが」
と呟《つぶや》きながら、どこかへ消えてしまいました。
七兵衛に別れた兵馬は、まことに宙を飛ぶ勢いで、吉原の火の中へ身を投げると、茶屋の暖簾《のれん》をくぐって、乾く舌をうるおしながら、東雲《しののめ》の名を呼んだのは間もないことであります。
「ナニ、東雲は病気?」
逸《はや》りきった兵馬の胸に、大石が置かれたようです。
「そうして、どこに休んでいます」
彼は病室まで、とんで行きかねまじき様子を、茶屋ではさりげなくあしらって、
「東雲さんは病気で休んでおいでなさいます、まあ、よろしいではございませんか、御名代《ごみょうだい》を……」
兵馬は、そんなことは聞いておられない。
「東雲の宿というのはどこです」
「いいえ、そのうちにはお帰りになりますから、まあ、ごゆっくりと……」
「その宿というのを教えてもらいたい」
「さあ、それでは内所《ないしょ》でたずねて参りますから、ともかくお上りくださいまし」
「いいえ、
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