妙にハニカンでいると道庵は、
「薬のことは薬で、たしかに承知致したが、お前に少々物の言い方を教えてやるから、もう少し前へ出ておいで」
 なんでもないことですけれども、そういうことが気味が悪いから米友は、あまり道庵の家へ寄りつきません。道庵を恩人だとも思い、医術にかけてはエライところのある先生だと信じてはいながらも、米友が道庵に懐《なつ》かないのは、いつもこうして米友を苦しがらせては喜ぶといったような、人の悪いところがあるからです。
「お前、今、なんと言った、目黒から出て来たが、近所に医者もないではないが、素姓の知れたのがいいから、それでこの道庵まで尋ねて来たと、こう言ったね、お前とおれの仲だからそれでもいいけれども、ほかのお医者様の前へ行って、そんなことを言おうものなら、ハリ倒されるよ」
「そりゃどういうわけだろう」
 米友自身では、誰に向ってもハリ倒されるようなことを言った覚えはないのです。ここの先生に向って言い得べきことは、よその先生に向っても言い得ないはずはないと思いました。また、人によって言を二三にするような米友じゃあねえ、と腹の中は不平でしたが、道庵に向っては、口に出して啖呵
前へ 次へ
全187ページ中79ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング