いでなさいましたね」
 道庵は忌《いや》に御丁寧な挨拶をして、米友をながめています。
「この中へひとつ詰めておもらい申したいんだ。なあに、近所に医者もあるにはありますがね、素姓《すじょう》の知れた医者の方が安心だから、それで吉坊主《きちぼうず》にことわって、わざわざ先生のところまで貰いに来ました」
と言いながら米友は、懐ろから黒塗りの四重印籠を二組取り出して、道庵の前へ並べました。
「なるほど、近所に医者もあるにはあるが、素姓の知れた医者の方が安心だから、それで吉坊主にことわって、わざわざこの長者町の道庵先生までお運び下し置かれたというわけだね。それはそれは痛み入ったことだ、有難くお請《う》けをして、早速、薬は調えて上げるが、米友、もう少し前へおいで」
 今日の道庵の猫撫声《ねこなでごえ》が大へんに気味が悪いのです。米友にとっては、女軽業《おんなかるわざ》のお角というものが苦手であるとは違った呼吸で、この道庵もまた苦手であります。道庵に頭からケシ飛ばされる時も、米友は面食《めんくら》ってしまうが、こうして猫撫声で出られる時も、気味が悪くてたまらない。もう少し前へおいでと言われて、米友が
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