思いました。
けれども、こうなってみると彼等二人は、盲目な群集を利用せんとする連中のためになくてならぬ偶像です。逃げようとしても逃がすまい。強《し》いて出ようとすれば、ここに留まっているよりも危ない。額を突き合せて二人が相談をしたけれども、何を言うにも弁信は盲目であり、茂太郎は子供である。
「では、与次郎に相談してみましょうか」
「ああ、与次郎に相談してみましょうよ」
二人は与次郎に向ってその苦しい立場を説明して、よい知恵を借りたいということを哀願すると、暫く眼をつぶって思案していた与次郎が……待って下さい、この与次郎というのは、一月寺《いちげつじ》の食堂に留守番をしている七十を越えた老爺《おやじ》のことであります。一月寺の貫主《かんす》は年のうち大抵、江戸の出張所に住んでいる。院代《いんだい》がいるにはいるが、これはほとんど寺のことには無頓着で、短笛《たんてき》を弄《ろう》して遊んでいる。与次郎が寺のことはいちばんよく知っていて、いちばんよく働くから、貫主も一目も二目も置くことがあります。与次郎老人が一月寺の実際上の執事《しつじ》でありました。その与次郎が、弁信と茂太郎に相談をか
前へ
次へ
全187ページ中73ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング