もの、北は筑波根へ向って急ぐ者、南は千葉佐倉をめざして崩れて行くもの、それに沿道に残されたものが参加して踊って行くから、大河の流れのように末へ行くほど流れが太くなるのはあたりまえです。
 その中心地、小金ケ原へ一夜のうちに出来た仮宮の宮柱も、みるみる太くなりました。いつ任命されたものか、もうそこに一癖ありげな神主が、烏帽子直垂《えぼしひたたれ》で納まっております。
 なるほど、この神主は一癖も二癖もありげで、ただ宮居の中に納まっているのみでなく、笏《しゃく》を振って手下の者を差図し、奉納の鏡餅は鏡餅、お賽銭はお賽銭で恭《うやうや》しげに処分をさせる。お供え餅は俵へ詰め、お賽銭は叺《かます》へ入れてどこかへ送らせてしまう。
 それからまたこの神主は、清澄の茂太郎と、盲法師の弁信の御機嫌を取ることが気味の悪いほどであります。仮宮は何の神様であるか知らないが、その御本体を大切にするよりは、茂太郎と弁信の御機嫌を取ることが大事であるらしい。
 憐れむべき二人の少年は、今はこの神主が怖ろしいものになりました。
 茂太郎と弁信は、このところを逃げ出そうとします。逃げ出さなければ、もう命が堪らないと
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