うこの地方の民謡だけではありません。相馬流山《そうまながれやま》の節を持ち込むものもあります。潮来出島《いたこでじま》を改作する者もあります。ついに「えいじゃないか」を歌い出すものがあって、その踊りぶりも得手勝手の千差万別なものとなりました。
 その翌日は、お札の降ったところの原の真中に、白木造りの仮宮《かりみや》が出来ました。その晩には仮宮の前へ、誰がするともなく、おびただしい鏡餅の供え物です。紙に包んだ金何疋のお初穂《はつほ》が山のように積まれました。
 多分、江戸から来た物好きがしたことでしょう。白の襦袢《じゅばん》に白の鉢巻の揃いで繰り込んで来た一隊が、鐘や太鼓で盛んに「えいじゃないか」を踊ります。
「一杯飲んでも、えいじゃないか、えいじゃないか」
 神前のお神酒《みき》をかかえ出して、自らも飲み、人にもすすめながら踊りました。
 小金ケ原の真中へ町が立ちます。物を売る店が軒を並べました。
 毎夜、一旦、ここへ集まって踊りの音頭を揃えた連中が、散々《さんざん》に踊り抜いて、おのおのその土地土地へ踊りながら帰る。水戸様街道を東へ踊り行くもの、松戸から千住をかけて江戸方面へ流れ込む
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