筑波見ろ
筑波の山から鬼が出た
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と歌い出すものだから、娘たちや若い衆が面白くなって、それにあわして、
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鬼じゃあるまい白犬だ
一匹吠えれば皆吠える
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興に乗って年寄までが、それに合唱して歌い出すと、おのずから足拍子が面白くなり、馬の前後に集まって、盆踊りの身ぶりで踊りながら町から原へと練り出します。
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もしもし
あなたは誰ですか
わたしは盲《めくら》でござります
だれを探しに来たのです
秋ちゃんを探しに来たのです
三べん廻っておいでなさい
おいでなさい、おいでなさい
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この踊りが噂《うわさ》に広がって、北は相馬、南は葛飾《かつしか》、東は佐倉の方面から、小金の町へ人が集まって来ます。
噂を聞いて、踊りを見物せんがために来た者が、知らず知らず興に乗って、自らが踊りの人とならないのはありません。その伝染性の速かなことは、電波のようであります。
一よさ、踊りの味を占めたものは、その翌日の暮るるを待ち兼ねて集まらないということはありません。二里、三里、四里までは物の数
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