なんぞという人も、たしか東照宮の燈籠が憎かったと見えて、それを刀で斬りつけて、ついに捉《つか》まって自分の首を斬られるような羽目になりました。ここでもまた、東照宮の神前の幣束が目の敵《かたき》になってきたようです。なるほど、燈籠や幣束を苛《いじ》めたところで仕方がない、児戯に類する仕事であるが、それをやらせようという者には、相当の魂胆がなければなりません。
 果して、それは面白いからやろうという者が続出しました。
 全体が悉《ことごと》く志願者ですから、指名をすれば不平が出る、よろしい、主人役を除いてその余の同勢が悉く、明夕《みょうせき》押出そうということにきまって会が終りました。宇津木兵馬が帰って来たのは、その散会の後のことであります。
 果してその翌日、上野の東照宮に思いがけない乱暴人が闖入《ちんにゅう》しました。
 内陣の正面、東照公の木像を納めた扉の前に立っている、三本の金の御幣《ごへい》を担ぎ出したものがあります。事のついでに左右の白幣も、拝殿に立てた幣《ぬさ》も引っこ抜いて担ぎ出しました。お石《いし》の間《ま》で散々《さんざん》にお神酒《みき》をいただいて行った形跡もありま
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